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2025.04.03 外交・安全保障

「トランプ化」に共鳴する欧州右派・極右、EUはリベラリズムを維持できるか

臼井 陽一郎

 価値観を同じくするはずの米欧が大きく揺らいでいる。「米国第一」を掲げる第2次ドナルド・トランプ政権(トランプ2.0)は、欧州が米国の軍事力に依存していると批判し、欧州各国に防衛費の引き上げを求めたばかりか、欧州のリベラリズムの在り方を否定する。EUは安全保障の自立性向上へとかじを切ったが、EUに懐疑的な右派・極右勢力が拡大しており、「反リベラリズム」でトランプ2.0と呼応する。こうした動きは、EUの理念である「人間の尊厳、環境の正義、公正な社会、ジェンダー平等」といった普遍的価値を変えるほどに力を持ち、軍事化を含めたEUの政治行動に影響を与えていくのだろうか。

 与野党を問わず、一政党内にもさまざまな主義主張があるものだが、米共和党内では「トランプ支持」が90%にも及び、彼の個人的な選好が党の在り方を決めてしまっている。こうした共和党の変貌を「トランプ化」と表現することがあるが[1]、政党にとどまらず、「政治・政策全般のパーソナル化」として理解できる概念だ。「米国を再び偉大に(MAGA)」というフレーズの下、トランプ氏個人の判断が特別視される。権威主義的ナショナリズムが強く打ち出され、化石燃料回帰の方向性が示される一方、DEI(多様性・公平性・包括性)に関する施策は嫌悪される。また、ポピュリストの手法に長け、資本主義の先端を行くビッグテックへの利益誘導(規制緩和)にも余念がない。

 「トランプ化」は、欧米による「大西洋同盟」の基盤的価値を毀損(きそん)する。例えば、J・Dバンス米副大統領によるドイツ・ミュンヘン安全保障会議でのスピーチもその一つ。彼はロシアの偽情報から民主主義を守ろうとする欧州を否定する。外国の介入があったとして大統領選挙を無効にしたルーマニアを引き合いに、「たかが数万ドルのデジタル宣伝で外国に破壊されるような民主主義など、大して強いものではない」などと述べ、ロシアの責任を曖昧にする。

 また、米国の行政改革を委任された実業家イーロン・マスク氏は、自らが所有するX(旧Twitter)上で、いまだナチス・ドイツを引きずる極右政党「ドイツのための選択肢」(AfD)を公然と応援する。それはXという世界規模の巨大SNSをわが物顔で利用する政治的宣伝である。そしてロシアのウラジーミル・プーチン大統領に接近するトランプ大統領は、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領を「独裁者」と非難し、メディア公開の場でバンスと共に彼をなじってみせたこともあった。

 トランプ2.0が欧州に対して突き付ける最も重い課題は安全保障の自立だ。「欧州の安全保障は米国に依存し過ぎだ」という批判は以前からあった。しかし、問題の本質は欧州の甘えなどではない。欧州が今回、これまでと異なる強い反発を見せ始めているのは、トランプ政権が大西洋同盟の基盤的価値を否定しているからである。EUと英国(そしてカナダ)が対米関係を見直し始めている本質的な理由が、ここにある。

欧州自身が強くならねばならない

 もっとも、安全保障における脱米国依存のスタンスは各国で一致していない。英国・ロンドンで3月2日に開催された有志国安保会議では、英国とフランスがウクライナへの平和維持軍派遣を提案したが、ドイツからの応答はなく、イタリアは反対に回った。ハンガリーのオルバン・ヴィクトル首相は「トランプ・プーチン支持」を公言し、イタリアのジョルジャ・メローニ首相もトランプ批判にはくみしない姿勢を見せている。この有志国安保会議は続けてフランス・パリでも同月27日に開催され、30カ国が参加したものの、英仏が突出する構図は変わらなかった。

 他方で、次期ドイツ首相の座をほぼ手中に収めたキリスト教民主同盟(CDU)のフリードリヒ・メルツ党首は、フランスのエマニュエル・マクロン大統領に「核の傘」を欧州中に広げることを検討するよう持ちかけ、マクロン氏が肯定的に反応するという動きもあった。ポーランドのドナルド・トゥスク首相は、核保有の可能性を示唆しつつ、国民全男子に軍事トレーニングを義務づける構想を公表している。スペインのペドロ・サンチェス首相は、EU軍創設を提言している。

 このように優先事項の選択にズレはあるものの、EUの政策担当者の間には「EUが欧州の利益と安全を最優先に追求する権力政治の主体へと変貌を遂げ、米国のコミットメントなしでもロシアを抑止できる物的パワーを手に入れなければならない」という共通認識が確かに形成されている。

 3月6日の特別欧州理事会(EUの首脳会議)で承認された8000億ユーロの欧州再軍備(ReArm Europe)構想は、ウルズラ・フォン・デア・ライエン欧州委員長によって準備された計画案であった。実はEUは、第2次トランプ政権発足以前からすでに、欧州委員会の主導の下、地政学的主体化を進めてきていた。ロシアや中国に対抗するためだ[2]。同月9日の第2次フォン・デア・ライエン委員会発足100日目となる節目のプレスで、同氏は「米国とは共通の価値が存在するから差異は克服可能だ」と述べる一方、「EU自身が強くなるのだ」と断言している。トランプ2.0が大西洋同盟の基礎となるリベラリズムを壊し始めている現在、EU自身がリベラリズムを維持しながらもなお強くなれるのかが、問われている。

防衛費引き上げ、脱米国依存へ

 上述の「ReArm Europe」を巡っては、親ロシア・親トランプのハンガリーも、ウクライナ支援には反対するものの、EU全体の軍事力向上には賛成であった。強化策の中身は、(1)EUが加盟国に1500億ユーロを融資するとともに、(2)EUが加盟国に課している財政赤字ルールを緩和し、軍事費のためなら財政赤字を一定程度容認する——というものだ。

 これと並行して、ドイツは憲法(基本法)を改正し、構造的財政赤字をGDPの0.35%までにとどめる「債務ブレーキ」を緩和して、防衛費拡張の余地を増やしている。スウェーデンは2030年までに防衛費のGDP比3.5%を達成すると断言する。中道左派政権のスペインも2029年までに防衛費のGDP比2%を実現すると明言している(「GDP比5%」を要求してきたトランプ政権には「過去10年の伸びと中身の質で判断せよ」と反論している)。

 実は、EU全体の軍事費は決して少なくはない。2024年のEU加盟国全体の軍事費は3260億ユーロ(3345億ドル)にも上る。米国の8952億ドルには遠く及ばないものの、中ロを上回る規模だ。欧州委員会は2024年3月、EUの枠組みとしては初となる「欧州防衛産業戦略」(EDIS)を公表し、2030年を期限とした以下の数値目標を打ち出している。

・EU防衛装備品の全貿易に占める域内貿易の割合を35%に上昇(米国との貿易を減らす)
・加盟国が欧州防衛産業から防衛装備品を調達する割合を50%に上昇(米国からの輸入を減らす)
・全防衛装備品調達に占める加盟国間共同調達の割合を40%に上昇(加盟国共同で欧州防衛産業を育成する)

EU懐疑的右派・極右勢力の躍進

 こうした動きにあって懸念されるのは、EUが米国の「トランプ化」への対応を通じて、欧州利益だけを追求する権力政治志向に走ってしまうことである。その可能性を考える上で注目すべきなのが、勢力拡大を続けるEU懐疑的右派・極右勢力だ。この勢力が掲げる「反グリーン(脱炭素)」「反移民」「反ジェンダー」といった政策志向は、EUのリベラルな価値を毀損しかねない。

 象徴的な動きが、2月23日実施のドイツ連邦議会選挙で、アリス・ヴァイデル氏が共同党首を務める極右AfDが第2党の座へと上りつめたことだ。得票率20.8%で152議席の獲得である。これまで、中道右派のCDU(キリスト教民主同盟)/CSU(キリスト教社会同盟)と中道左派のSPD(社会民主党)が欧州統合と大西洋同盟について合意を維持してきたことが、EUの発展にとって重要であった。ところが、今回の選挙では両者の合計得票率が第2次世界大戦後最低となってしまった。党内にナチス時代のスローガンを使用して罰金を課された幹部を擁するAfDの勢力拡大と、欧州統合・大西洋同盟を推進してきた中道2派の地盤沈下は極めて対照的だ。

 同様の傾向は、2024年6月の欧州議会選挙でも見られた。RN、AfD、そして「イタリアの同胞」(FdI)という右派・極右勢力が躍進したのである。選挙の詳細には触れないが[3]、キリスト教民主主義勢力、社会民主主義勢力、中道リベラル勢力による親EUの「グランドコアリション」が議席を減らし、EU懐疑的な右派・極右勢力が議席を増やすという結果であった。

 ただし、右派・極右に対抗する勢力が完全に死に体となったわけではない。後述する右派・極右の3会派合計190議席に対して「コルドンサニテール(防疫線)」を張る左派・極左/環境主義/社会民主主義/中道リベラルが312議席を確保している。コルドンサニテールとは、勢力拡大を封じるため、欧州議会内の委員長職などから右派・極右を排除することを意味する。

右派共通の「反ウォーキズム、反官僚」

 欧州レベルで連携を深めてきた右派・極右勢力だが、統一会派を形成することはできず、欧州議会内では次の3会派に分かれてしまった(表1)。

(1)「欧州保守改革者」(ECR):メローニ首相率いるイタリアの同胞(FdI)と、ポーランドの「法と正義」(PiS)が2本柱の政治会派。元は英国保守党が創設したグループで、その離脱後にPiSとFdIがより右派色を強める形で引き継いでいる。

(2)「欧州のための愛国者」(PfE):欧州議会選挙の後、ハンガリーのオルバン首相が、オーストリア自由党のヘルベルト・キクル党首、「チェコのトランプ」の異名をもつアンドレイ・バビシュANO党首と共に結成した政治会派で、フランスの国民連合(RN)やオランダ自由党(PVV)なども参加しており、欧州議会内で第3党の座を確保している。

(3)「主権国家の欧州」(ESN):AfD中心の会派。当初は政治会派として認定される基準(7カ国以上23議員以上)をクリアできるか微妙であったが、ブルガリアの「再生」、ポーランドの「連盟」の参加を得て、会派設置にこぎ着けている。

【表1】欧州議会内右派・極右政治会派

 3会派に所属する各国政党の政治方針は実に多様だが、イデオロギー上の共通項を見出すことはできる[4]。3会派はいずれも欧州文明を守護し、真の自由を実現するキリスト教共同体の再生を目指している。「正しい欧州」にあっては、主権主義と愛国主義が基本規範となり、各国の文化・伝統が尊重され、伝統的家族主義が保護されなければならない。男女がそれぞれに本来的な役割を担い、性の自然性が保護されねばならない。

 従って、左派グローバリストが声高に叫ぶ「ウォーキズム」(差別撤廃、国家/民族に優位する個人の絶対的自由、環境正義/社会正義の貫徹といったプログレッシブな規範を尊重する考え方)は、人間の「本来的な自然の在り方」を否定するものだから、断固として排除されなければならない。

 このような思想からすれば、故郷を守るはずの農民を犠牲にして環境規制を押し付けるグリーンディール(EUの総合的気候変動対策)も、各国の文化に根ざした生活世界を破壊する多文化主義の移民難民政策も、「左派グローバリストの誤ったイデオロギーによるものだ」ということになる。そもそもブリュッセル(EUの本拠地)の官僚主義がウォーキズムによる狂信的イデオロギーに影響されているのであり、欧州各国が主権主義を守り、愛国主義を実現するためにも、多文化主義という「狂った考え方」を正すためにも、ブリュッセルの官僚から権限を取り上げ、加盟国に戻さなければならない——。以上が、EU懐疑的右派・極右3派の、ほぼ共通した考え方である。

 ところが、対外政策に関しては3派に共通線を見出すことはできない。ECRは基本的には反プーチンの意識が強く、ロシア脅威論を主張するが、グループの2本柱であるFdIとPiSに温度差がある。どこまでも反プーチン・反ロシアのポーランドに対し、FdIは大西洋主義の立場にも、トランプ流ディールにも対応可能な柔軟な構えを見せている。

 それに対して、PfEとESNは、(RNが大西洋主義にも一定の理解を見せるのに対し、AfDは反EUリベラリズム・親トランプという差異があるものの)基本的には米国とは距離を置こうとしており、「ネオ・ユーラシアニズム」と呼ばれる白人キリスト者の広域ヨーロッパ構想(ロシアを含む)への親和性が見られる場合もあることに留意しておきたい。

EU懐疑的右派・極右抑止のカギを握るEPP

 EU懐疑的右派・極右勢力は、反リベラリズム・反ウォーキズムという点で、トランプ2.0と親和性が高い。「人間の尊厳、環境の正義、公正な社会、ジェンダー平等」といった普遍的価値に依拠して、自らの規制モデルをグローバルスタンダードに仕立て上げることがEUの戦略[5]であるが、EU懐疑的右派・極右勢力はその理念を否定する。ただしこの勢力は完全に一致したイデオロギーを保持しているわけではなく、例えば、「ユーロリアリズム」を掲げるECRには、安易な単純化を許さない柔軟性を見ことができる。

 注目すべきは、中道右派のキリスト教民主主義系勢力の今後の動向である。欧州議会内で欧州人民党(EPP)という政治会派を形成するこの勢力は、まさに欧州統合を推進してきた体制派である。EPPが(1)比較的穏健な右派ECRと組んでいくのか、(2)反リベラリズムを掲げるPfEやESNとも場合によっては手を携えるのか、それとも(3)グランドコアリションを重視し、中道左派の欧州社会民主進歩同盟(S&D)や中道リベラルの欧州刷新(Renew Europe)そして場合によっては欧州緑の党(Greens/EFA)とスクラムを組み、EU懐疑的右派・極右3派に対するコルドンサニテールを徹底していくのか——。これが目下のEU政治の基本的な問いである。

 ドイツの新政権を担うCDUはEPPの主要メンバーであり、メルツ新首相の言動が注目されているが、欧州委員会のフォン・デア・ライエン委員長がEPPの筆頭候補として欧州議会選挙を戦い、2期目の委員長の座を勝ち取った経緯にも注意を払っておきたい。両氏は現在、メディアで微妙な差異が指摘されている。どこまでもグリーンディールにこだわるフォン・デア・ライエン氏(彼女が進める修正立法はEU環境規制の簡素化にとどまる)と、大きな規制緩和を求めるメルツ氏——という差異である。EUにはびこる右派・極右勢力に対しては、メルツ氏の方が妥協しやすいとも言えそうだ。

 軍事化を進めるEUにあって、その政治行動を規定するイデオロギーに、EU懐疑的右派・極右勢力がどこまで影響を及ぼすかは、EPPの動向次第である。「トランプ化」する米国や国際政治にEUが立ち向かっていくに当たっては、こうしたEU内部のイデオロギー的路線争いにも注目していく必要がある。右派・極右3派の間の差異に留意しつつ、EPPの動向に注目していきたい。

写真:代表撮影/ロイター/アフロ

[1] R. Harmel et al., The Trumpization of the Grand Old Party, Social Science Quarterly, Vol.105 (3), May 2024, pp.403-43

[2] この流れはジャンクロード・ユンカー前欧州委員長から始まっていた(彼は自らが率いる組織を政治的に行動する欧州委員会=the political Commissionと呼んでいた)。ユンケル氏を引き継いだフォン・デア・ライエン氏は、地政学的主体としての欧州委員会(the geopolitical Commission)という呼び方に改め、いわば格上げしている。

[3] 「2024年欧州議会選挙について:民主主義の発展か、EU政治の停滞か」参照。

[4] 参照した基本文書は、ECR『聖ベネディクト・ビジョン──保守的価値憲章』(2024)、PfE『私たちの政治プログラム──マニフェスト』(2024)、ESN『設立規程第3条政治宣言』(2024)

[5] 「ビッグテックすら手なずけるEUデジタル規制、欧州パワーの源泉と限界を探る」参照。

地経学の視点

 これまでEUはリベラリズムに依拠した「普遍的な価値」をテコに、人権や環境などに関する規制を輸出することで域内を強くする戦略をとってきた。しかし、パンデミックや戦争といった大きな環境変化の中で、普遍的価値よりも目の前の経済や安全保障のリスクが表面化した。

 「リベラリズムが自国の産業を苦しめ、雇用を移民に奪われた」という欧州一般市民と、トランプ2.0誕生を支えたラストベルト(衰退した製造業の中心地帯)の米中低所得者層の怒りは通底する。だが、いくらマスク氏が独極右政党にエールを送ろうとも、自国第一や保護主義を志向する限り、共鳴こそすれ、手を組むことはない。

 行き過ぎたリベラリズムが自国を苦しめているという批判には一面の真理がある。一方で、行き過ぎた自国第一・保護主義が先の大戦につながったことを私たちは知っている。各国で広がる「トランプ化」は不可逆か、「防疫線」で抑止できるのか。欧州は分水嶺を迎えている。(編集部)

臼井 陽一郎

新潟国際情報大学国際学部 教授
専門はEU政治。早稲田大学社会科学部卒業、同大学院経済学研究科博士後期課程単位取得退学。英国リーズ大学大学院法学研究科論文修士課程修了。著作に『EUの世界戦略と「リベラル国際秩序」のゆくえ——ブレグジット、ウクライナ戦争の衝撃』(編著、明石書店、2023年)、『変わりゆくEU——永遠平和のプロジェクトの行方』(編著、明石書店、2020年)、『EUの規範政治——グローバルヨーロッパの理想と現実』(編著、ナカニシヤ出版、2015年)など。日本EU学会理事、2020~23年事務局長。

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