実業之日本フォーラム 実業之日本フォーラム
2025.04.25 外交・安全保障

日英伊・次期戦闘機の現在地、米国抜きの枠組みで空の安保は強まるか
元空将・荒木淳一氏に聞く

実業之日本フォーラム編集部

 日本、英国、イタリアによる次期戦闘機の共同開発計画「グローバル戦闘航空プログラム(GCAP)」。日本はF-2戦闘機、英・伊はユーロファイターの後継機として、2035年からの配備を目指して計画を進めている。次期戦闘機は「第6世代戦闘機」と呼ばれ、ステルス性能の向上や無人機との連携が要求される。日本としては、次期戦闘機の輸出を通じて国内防衛産業を保護・育成することも重要だ。GCAPの現状と展望について、元空将の荒木淳一氏に聞いた。

※本記事は、実業之日本フォーラムが会員向けに開催している地経学サロンの講演内容(3月26日実施)をもとに構成しました。(聞き手:池田信太朗=実業之日本フォーラム編集長、構成:鈴木英介=実業之日本フォーラム副編集長)

——まず、自衛隊における戦闘機の役割について教えてください。

 戦闘機は、航空自衛隊が行う航空作戦の主要任務を担うと同時に、日本の領空の主権を守る意味でも非常に重要な役割を担うアセットです。陸・海・空の3自衛隊が一体で行う領域横断の統合作戦にも大きな役目を果たします。具体的には、戦闘機が敵の航空機やミサイルなどを制圧して味方の海上戦力や陸上戦力を防護したり、敵の攻撃にさらされることなく陸上・海上作戦を遂行しやすくする環境を整えたりする。これを「航空優勢」といいます。

 昨今、「宇宙」や「サイバー」といった新領域が重要となっています。陸・海・空という従来領域と併せて領域横断的に作戦を展開するものですが、その中での航空優勢と戦闘機の意義は変わりません。

——これからの防衛を考える上でも戦闘機は不可欠だということですね。その上で、次期戦闘機開発計画に関わる「GIGO(GCAP International Government Organization)」という組織について教えてください。

 GIGOは、日英伊による次期戦闘機共同開発計画であるGCAPを一元的に管理・運営する国際機関です。日、英、伊の関係省庁の代表者が集まって、各国における予算手続きをしたりGCAPに従事する産業団体と契約したりする出先機関です。

 初代トップの首席行政官には、岡真臣・元防衛審議官が就任しました。防衛省の対外的な政策調整を一手に担うのが防衛審議官であり、その経験を存分に発揮されると思います。もっとも、共同開発は各国が国益を追求し合う厳しい交渉の場でもあり、トップに日本人が就いたからといって日本の国益が担保されるわけではありません。

 また、GCAPの開発を先導する企業として、日本航空産業機構(JAIEC)、英BAEシステムズ社、伊レオナルド社によるジョイントベンチャー(JV)の設立が合意されました。国同士の折衝はGIGO、製造に関するプロジェクトマネジメントはJVが担う形です。JVの本部は英南部のレディングに設置し、イタリア人が代表に就く予定です。3カ国がバランス良く役割分担しています。

単独開発から共同開発へ

——次期戦闘機は、日本はF-2、英・伊はユーロファイターの後継機として2035年の運用開始を目指しています。この3カ国で共同開発することになった背景を教えてください。

 当初日本は、次期戦闘機の国産化を目指していました。「F-3」と呼ばれる計画です。

 F-3開発に当たっては、2030年代のF-2退役をにらんで、2010年ころから技術研究開発を進めていました。最大の課題はエンジン開発で、推進力をつかさどる戦闘機の「命」であるエンジンを国産化できるかどうかがカギでした。IHIと防衛装備庁で研究開発して試作までこぎつけていたのですが、戦闘機に搭載した状態を模擬して高度に応じた環境で試験する場所がないなど信頼性を高めることが難しく、生産できるかどうか疑問符が付いたのです。

 その後、日本は米国との共同開発を模索したのですが、米国側の技術開示の姿勢は消極的で、共同開発にもあまり関心を示しませんでした。F-2の後継機だけだと、100機ぐらいしか生産しないので非常に単価が高くなります。後述しますが、米国でも独自の次世代戦闘機プログラムが進行していたという事情もあります。

 そこで日本は、当時2035年の運用開始を目指して進んでいた英伊の「BAE システムズ・テンペスト」という次期戦闘機プログラムに相乗りし、最終的にGCAPの枠組みに落ち着いたのです。

——次期戦闘機は「第6世代戦闘機」に区分されるそうですが、どのような特徴があるのですか。

 戦闘機の「世代」は、後付けで決まる部分もあり、明確な定義はありません。前の世代の主力戦闘機より一段上の優位性を持つものが「次世代戦闘機」とされています。

 第5世代と比較して、次世代戦闘機の特徴は大きく2つあります。1つは「無人戦闘支援機(CCA)」と有人機の連携で能力を発揮すること。もう1つはAIを活用して戦闘判断や情報処理の支援を行うことです。CCAと、本体である有人機が一体化して機能を発揮すれば、第5世代機よりはるかに優位に戦闘を進めることができます。また、第5世代機の特徴であるステルス性能も、次世代戦闘機ではさらに引き上げられ、レーダーや赤外線による探知を回避します。

 ただ、GCAPの進捗は若干計画から遅れています。2035年の初号機配備を目指す場合、本来は2025年中に試作機の製造が始まってなければいけませんが、具体的な動きはこれからです。

——「CCA」は、今ウクライナ戦争などで活用されているドローンとは違うのですか。

 CCAのポイントは、有人機と協調して戦闘することです。単独で攻撃する小型のドローンや自爆型ドローンとは全く異なります。確かに、ウクライナ戦争のように主戦場が陸上や海上の場合、自爆型ドローンは非常に効果的ですが、空の領域ではそのスペースの広さや戦闘機のスピードからすると、それほどの脅威にはなりません。

 CCAの意義は、単なる有人機との連携にとどまりません。戦闘機開発では、さまざまな技術を限られた機体スペースの中に納めなければならず、個々のシステムを統合的に最適運用できるようにする「システム・インテグレーション」を行わねばなりません。ここが一番難しいところで、最先端の技術があっても、それらすべてを最大性能を発揮できる形で搭載し切れないのです。そして、技術の高度化が進むほど価格が高騰するとともに、開発期間も延びて実戦投入が遅れるジレンマがあります。

 しかし、例えばこれまで戦闘機に搭載していたレーダーセンサーの機能をCCAに移せば、先進的な技術をいち早く最大化した形で実戦に投入できます。戦闘機をアップデートしなくても、無人機の性能が上がれば低コストで戦場の優位性を保てるわけです。

 そもそも有人機はパイロットの生命がかかっています。無人機であれば搭乗員の生命を失うリスクはないので、作戦の選択肢が広がります。レーダーセンサーに限らず、CCAにミサイルを搭載するとか、逆にミサイル攻撃を妨害する電子戦の機能を載せるとか、ネットワークの中継機能を付与するなど、機能特化した無人機を作り、作戦に応じて使い分けるケースも出てくるでしょう。

「5類型」は時代にそぐわず

——次期戦闘機を共同開発国以外に輸出する場合、日本の「防衛装備移転3原則」に抵触しないのでしょうか。

 もともと防衛装備移転3原則は「武器輸出3原則」と呼ばれ、「武器」に相当するものは、部品に至るまで厳しく制限し、輸出できませんでした。しかし、日本を取り巻く安全保障環境が厳しくなっていることや、日本の防衛産業の保護・育成に鑑みて、一定の条件の下で輸出・移転できるように同原則を改定・改名したのが防衛装備移転3原則です。

 その防衛装備移転3原則の下でも、本来は戦闘機の輸出は認められません。輸出対象を「救難、輸送、警戒、監視、掃海」の5類型に限っているからです。しかし、GCAPが立ち上がる際に、次期戦闘機は5類型による制限の対象外とされました。輸出先を共同開発国の他、米仏独など「防衛装備品・技術移転協定」締約国15カ国に限定した上で、輸出する場合には個別案件ごとに閣議で決定することとしています。

 そもそも、5類型自体に課題があります。2022年に公表されたいわゆる「安全保障3文書」でも、防衛装備移転は、同志国との防衛協力を促進するための重要なツールであり、これを最大限に生かすとされていますが、実際には、5類型は同志国との防衛協力を妨げています。

 例えば、日本はウクライナの支援を表明していますが、武器・弾丸を直接渡すことはできません。もし日本が台湾有事に巻き込まれ、弾丸が不足した時には、欧州に支援を要請することもあるでしょう。しかし、ウクライナ戦争の時は武器・弾薬を一切提供せずに、自分の有事には助けてくださいというのは、筋が通りません。国際秩序を維持する上でも、日本だけの事情で武器輸出を制限する方針は時代遅れだと思います。

 
——GCAPにサウジアラビアが参画する可能性が報じられています。

 経済的な意味では、自国が出資する割合が減るので歓迎する国もあると思いますが、4カ国になれば枠組みの見直しだけでなく、さまざまなフェーズで国益の調整に時間がかかります。先ほど述べたように開発計画が遅れ気味なので、2035年ごろのF-2退役に合わせて次期戦闘機を配備したい日本としては、計画が遅れるデメリットの方が大きいと思います。

 また、サウジアラビアは、現状「防衛装備品・技術移転協定」の締約国ではなく、「自由・民主主義・法の支配」という共同開発国の価値観にそぐわない点があるとの懸念の声もあります。日英伊にとって難しい判断となります。

中国の空軍能力は大きな脅威

——他国の次期戦闘機の開発状況について教えてください。

 まず、欧州には「FCAS(Future Combat Air System)」という仏・独・西による次期戦闘機開発プログラムがあります。開発のメドは2040年と若干GCAPより後ろ倒しです。参加各国が運用するユーロファイターやラファールの後継機ですが、欧州としては、GCAPとFCASを並行して計画を走らせる余裕はなく、非効率だという声もあります。

 また、フランスは独自路線に強いこだわりがある国です。かつてユーロファイターの共同開発から離脱し、ラファールを独自開発したように、今回もFCASの枠組みから抜ける可能性もあります。

 GCAPとFCASが統合する可能性もありますが、やはり日本の立場としては、統合に伴うスケジュールの遅れが懸念されます。2035年から遅れれば遅れるほど、F-2から後継機へのバトンタッチがずれ込み、日本の国防に穴を開けるので、個人的には得策ではないと思います。

 米国は、F-22の後継機となるNGAD(Next Generation Air Dominance)というプログラムを進めてきました。2030年を開発のメドに掲げ、試作機も5年前に初飛行していますが、これまで秘密のベールに包まれていました。それが、今年3月にドナルド・トランプ大統領が米ボーイングと製造契約を結び、自身が第47代大統領であることにちなんで「F47」と名付けると発表し、驚いています。

——NGADは、2024年末までに発表予定だった開発方針を一時停止していましたが、なぜ急に話が進展したのですか。

 戦闘機開発は大きな予算が必要なので、政権末期のジョー・バイデン大統領(当時)に開発方針を委ねるのではなく、次期政権の発足まで判断を留保していたということでしょう。結果的に、第6世代の次期戦闘機は米国にとって不可欠だという判断に至りました。冒頭お話ししたように、宇宙・サイバーを含めた多領域の作戦の中でも、航空優勢を獲得することは戦いに勝つ上で必須要件であり、それを担保できるのがNGADということです。

——中国とロシアの戦闘機の開発状況はどうなっていますか。

 まずロシアは、第6世代機の研究開発に着手できていません。第5世代機に当たるSu-57が最新鋭ですが、その配備も予定より遅れ、作戦可能なSu-57は10機に満たないと言われています。しかし、ロシアの技術力を侮ってはいけません。いま戦争中なのでなかなか開発を進められませんが、冷戦期、米国に伍して戦闘機や爆撃機を作り続けてきていた実績とノウハウがあります。

 中国では、2024年12月に「J-36」「J-50」という新型戦闘機の飛行試験の様子がSNSに投稿されました。これらが第6世代戦闘機に該当するかは不明ですが、実際に空を飛んでいるという事実を重く受け止めるべきです。個人的な反省として、冷戦終結後、私を含めて日本は中国の空軍力を脅威と感じていませんでした。しかし、経済力を高めた中国にあっという間に追いつかれ、抜かれてしまいました。少なくとも保有戦闘機の数や質、さらには自国製造などの点で、航空自衛隊に対する中国の優位性は明らかです。

「米国抜き」の枠組みでも日米同盟に悪影響なし

——日英伊の次期戦闘機の開発を進める上で、日本企業はどういった役割を果たすのでしょうか。

 GCAPに参画する企業の役割については、図のような分担がなされると推定されています。

【図】日英伊・次期戦闘機参画企業の役割分担(推定)

 図に掲げられた日本の企業はいずれも高い技術力を持っています。ただ、F-2以降、戦闘機の開発に携わった経験が実質ありません。システム・インテグレーションを含めたトータルの能力では他国企業に劣るのが現状だと思います。企業と政府一丸となって日本の技術を磨いてGCAPに貢献することを期待します。

——米国抜きの次世代戦闘機開発は、日米同盟にマイナスの影響を与えるでしょうか。

 個人的には心配していません。日英伊いずれも、米国とのインターオペラビリティー(相互運用性)を必要としており、GCAPでも米国との相互運用性を想定しているはずです。GCAPとNGADの機体が別々だからといって、必ずしも連携に支障をきたすわけではありません。

 むしろ、トランプ政権の不確実性が高まる中で、日英伊が戦闘機を共同開発することには、大きな意味があります。欧州の安全保障とインド太平洋の安全保障をGCAPでつなぐわけですから、この戦闘機を作ることによってサプライチェーンも強化されます。トランプ政権は対中抑止のためインド太平洋の安全保障を重視する一方、自国の負担増を嫌っているので、GCAPは米国にとってもプラスになるはずです。


荒木 淳一:元空将
防衛大学校を卒業後(第27期)、1983年に航空自衛隊に入隊し、戦闘機操縦士(F-15)として勤務。米空軍士官学校交換教官、米フレッチャースクール法律外交大学院修士。航空自衛隊南西航空混成団司令官などを歴任し、2018年、航空教育集団司令官で退官。現在、インド太平洋問題研究所(RIIPA)顧問、日本戦略研究フォーラム(JFSS)政策提言委員、自衛隊家族会理事等を務める。

地経学の視点

 当日のインタビューでは、米国のDOGE(政府効率化省)を率いる実業家のイーロン・マスク氏が、ステルス戦闘機F35を高コストだと批判したことを引き合いに、「テクノロジーの進化によって有人戦闘機は不要になるのではないか」という質問も飛んだ。

 これに対し、荒木氏は無人機の有用性は認めつつも、「国防の世界に失敗は許されない」と答えた。民間企業であれば、新製品を市場に投入して欠陥を許容しながら改良を重ねることがイノベーションの近道だろう。だが、もし戦場で無人機がすべての有人機を代替して、その無人機の遠隔管制に失敗するようなことがあれば、国の命運を左右しかねない。

 とはいえ、自衛隊の人手不足は深刻かつ構造的で、無人機の導入拡大は避けられない。CCAと有人機の連携を通じた戦略をいかに練り上げ、あるいはいかに対抗手段を構築するか。第6世代戦闘機が空を飛ぶ前に備えねばらない。(編集部)

実業之日本フォーラム編集部

実業之日本フォーラムは地政学、安全保障、戦略策定を主たるテーマとして2022年5月に本格オープンしたメディアサイトです。実業之日本社が運営し、編集顧問を船橋洋一、編集長を池田信太朗が務めます。

著者の記事